東京高等裁判所 昭和29年(ネ)90号 判決
手形行為が要素に錯誤があつて無効とされるのは、手形行為をなすこと自体に関して錯誤のある場合に限られるのであつて、いやしくも手形を発行する意思をもつて手形を振出したものであれば、たとえその手形振出の縁由について錯誤があつても、その振出行為を無効たらしめるものではないと解すべきところ、控訴人が手形を発行する意思の下に本件手形を振出したものであることは、控訴人において訴外柏商事株式会社と締結した工事材料買受契約による代金前払のため本件手形を振出したものであるとの控訴人の主張自体から明らかであつて、控訴人が右契約を締結したのは、仮にその主張の如く右訴外会社の代表者等の詐欺によつて真実工事材料を買受けることができるものと誤信したがためであつたとしても、右誤信したことは単に本件手形振出の縁由に過ぎないものというべく、それが手形振出の縁由ではなくてその要素であつたことを認定するに足りるなんらの証拠がないから、本件手形振出行為自体に要素の錯誤があるという前記抗弁は到底これを採用することができない。